【音楽】藤原功次郎(トロンボーン)インタビュー


2019/04/20 (土) 更新

【音楽】藤原功次郎(トロンボーン)インタビュー

日本を代表する若きトロンボーン奏者であり、所属する日本フィルハーモニー交響楽団では首席奏者を務める藤原功次郎さん。「コバケンとその仲間たちオーケストラ」のコンサートはもちろん、先日も長野東高校吹奏楽部第39回定期演奏にゲスト出演するなど、長野県とは縁があるようです。この日も、松本市・キッセイ文化ホールの「しばふコンサート」に出演し、小さなお子さんと若いお母さんをトリコに。そんな藤原さんにインタビューをお願いしました。クラシック奏者のイメージとは違った、気さくで、大阪仕込みの笑いと、ほんわかした空気に包まれたひと時をお届けします。

長野県には縁があると伺いました。

伊那市に藝大の宿泊施設があるんですよ(東京音楽学校=現東京藝大の初代校長を務めた伊澤修二氏が高遠出身だった)。学生のときからちょいちょい来てまして、ちょいちょい演奏する機会があるんですよ。親せきがいるとか、そういう縁があるわけではないんですけど、音楽でつながっていますよね。「コバケンとその仲間オーケストラ」や長野県芸術監督事業があったり、セイジ・オザワ 松本フェスティバルがあったり、長野県は音楽の文化レベルが高いじゃないですか。それで僕も演奏する機会を多くいただけているのかなって思います。

藤原さんがトロンボーンを始めたきっかけを教えてください。

僕は小さいころはピアノと作曲を習っていました。藝大もそれでいくつもりだったんです。作曲はオーケストラの勉強をしなければいけないんですけど、僕は自分の声が高かったせいか渋くて太い音が好きなんです。だからヴァイオリンよりチェロ、トランペットよりトロンボーンが好き。そもそもトロンボーンが好きなのは、ハーモニーができる、メロディができる、ジャズができる、ポップスができる。なんでもできるから。とは言いつつ演奏する機会はなかったんですけど、中学1年のときに、父親が酔っ払って「お前、やるわ」とトロンボーンを買ってきたんですよ。昭和のお父さんだったら普通はお寿司の織りですよね(笑)。父はもともとクラリネットをやっていてジャズが好きだったので、小さいころからライブなどに連れていったもらっていたんですよ。「なんでなんで?」って聞いたら、「いつか吹くかもしれんから」って。

藤原さんがトロンボーンに惹かれていたことを、お父様も感じていたのかもしれませんね?

そうかもしれません。その3日後に事故に遭って亡くなってしまったんですけど。実はピアノでは藝大に行けるか行けないかギリギリのラインだったんですよ。それもあってトロンボーンをやってみたら楽しい。それまで吹奏楽部は入ってなくて、プロのエキストラみたいな感じで、ピアノやトロンボーンで手伝っていたんですけど、中3になってから入りました。それで音楽科のある高校にもトロンボーンで入れたんですけど、ちゃんと学んでいないから大変でした。でも楽しくやっていたら藝大も入れて、京都のノートルダム女学院にも就職したんですよ。女子校の先生しながら東京文化会館のコンクールで優勝して、その直後に日本フィルのオーディションを受けたら通ってしまって。

好きこそものの上手なれを地でいく人生ですね。藤原さんにとって「コバケンとその仲間たちオーケストラ」を率いる小林研一郎監督はどんな存在ですか?

小林先生が東京藝大の教授をされていたときに、僕は副科指揮法の授業でめちゃくちゃお世話になっているんですよ。だから大学のオケ時代からいろいろ教わりました。小林先生の指揮のスタイル、音楽のスタイルというのは、お客様の満足感をすごく大事にされているんですね。もちろんコンダクト・テクニックもすごいですし、すべて(楽譜を)暗譜されているんですよ。そういった先生の姿勢は僕が目指しているところでもあり、おこがましいんですけど共通する部分じゃないかと勝手に思っているんです。そういう意味ではもう恩師です。そして日本フィルに入ったとき、最初のお仕事が小林先生だったんですけど、一言「入ったのね?」ってすごく喜んでくれて。日本フィルにとっては小林先生は精神的支柱ですから、そういった中で、目をかけていただいたり、ありがたいことです。

小林監督の指揮者としての魅力はどんなところにありますか?

いい意味で、土臭いかな(笑)。それは先生の原点であるハンガリーの流派というか、大阪でいう人情味に近いかもしれません。僕、関西人やからそういう表現になるんですけど、小林先生の場合は、人の弱さや繊細さ、痛みがわかるような人間臭さがあると思うんです。かっこ悪ささえも自然体で見せられるところがある。リハーサルのときでも時折、「きったない音で」って言うんですよ。普通は言わないことを言える。人生の中でいろんなことをされてきたからこそ、かっこ悪いところも飾らずに見せられるんだよって教えていただいている気がします。

「コバケンとその仲間たちオーケストラ」に入った経緯を教えてください。

僕が勤めていたノートルダム女学院は、カトリックの学校で、建学の精神にもあるボランティアという教えにも触れていたことも大きかったと思います。日本フィルに入って小林先生から「仲間オケというのをやっているんだけど」とうかがったときに、先生のお人柄と愛に触れるということ、ボランティアだということに感銘を受けました。参加して10年目になるんですけど、今の活動の礎となる機会をいただいたと思っています。もちろんその当時はオケのイロハもわからないペーペーでしたから、小林先生の音楽を間近で体験できるという喜びがありました。音楽の本来の姿は、最終的にお客様が何かしらの活力を持って帰ってくださることだと思っていて、先生の音楽が奏でるそういう部分にも引き寄せられたんだと思います。本当にいろんなところに連れて行っていただいたり、いい経験をさせていただいています。

オーケストラには、その座組みによっていろいろ個性があると伺います。「仲間オケ」の場合はどんなところですか?

「仲間オケ」は日本的ではないという気がするんですよね。僕自身、ウィーン交響楽団をはじめ海外のさまざまなオケで演奏させていただいた経験で共通するのは、初日のリハ。「俺はこんなことができるぜ」という技をみんなが惜しげも無く披露するんです。それをベースに曲が組み立てられていく。でも日本のオケはどちらかというと周りの様子を見ながらリハーサルが始まっていくんです。「仲間オケ」は海外よりで、「そんなことする?」「こんなこともやっていいんだ!」ってまだオケに入りたての僕は驚きましたね。でも小林先生はそれを尊重して引き上げてくださる。僕が知っている限り、日本で唯一それができる指揮者さんだと思います。そしてもう一つ、普通のオーケストラと違うのは、「仲間オケ」は聞こえてこないパートがキラリと光るところが魅力なんです。例えばヴァイオリンがメロディを奏でるじゃないですか。そのときヴィオラがリズムを刻むんですけど、そのヴィオラが魅力的なんですね。そういうことがいろんな楽器で起こる。だからお客様も普通のオケでは感じられない発見があるかもしれませんよ。

最後に須坂でのコンサートについて、どんな期待をされていますか?

須坂でのコンサートは初めてなので、新しいお客さんとの出会えるのはすごく楽しみです。強烈ですよ、このオケも、先生も。あとは曲の良さですね。メイン、メイン、メイン、全部メインの曲が並ぶコンサートはなかなかないですから。初心者の方でも楽しめますよ。全部聞き覚えがあると思います。そういう意味では奏者にとっても大変なんですけど、そこにあえて挑んでいく使命感でやっています。でもそれが楽しいんですよ。自分が楽しめば、お客さんにも楽しさが伝わる。最初にもお話ししましたけど、生きていく上で、単純に楽しめて元気になれるコンサートって大事だと思うんです。僕の見せ場ですか? チャイコフスキーの壮厳序曲「1812年」でしょうか。トロンボーンがメロディですから。最後にフランス国歌が流れるんですよ、大砲の音とともに。あ、コバケンでは大砲の音は和太鼓なんですよ、ユニークでしょ。とにかくね、くればわかる。来れば感じる。迷っている人はとにかく来なさい(笑)。こんなコンサート、小林先生じゃないとできないと思う。「仲間オケ」がある限り、僕はずっと続けていきたいし、先生とご一緒することで自分も成長していきたいです。

藤原功次郎
日本フィルハーモニー交響楽団トロンボーン奏者。洗足学園音楽大学非常勤講師。兵庫県立西宮高校音楽科卒業。東京藝術大学でアカンサス音楽賞を受賞し首席で卒業。これまでに国内オーケストラ、ウィーン交響楽団首席奏者などを客演。2012年オーストリア国際管楽器コンクールで全部門から優勝、オーストリア名誉市民賞受賞、2016年シチリア島イブラ大賞国際音楽コンクール、全部門で優勝。これまでに、兵庫県知事賞、兵庫県教育委員長賞(ゆずりは賞)、松方ホール音楽賞、坂井時忠音楽賞、Goldene Dohle 勲章、川西市民文化賞、兵庫県芸術奨励賞、カーネギホールアワードを受賞。2017年済州島国際金管楽器コンクール審査員、イブラ大賞国際コンクール審査員と、イブラ大賞受賞記念ワールドツアー。国際原子力機関IAEA、カーネギーホールなど名だたるホールで演奏。またレコーディングも積極的に行い、NHK大河ドラマ「軍師官兵衛」、連続テレビ小説「半分、青い。」、映画「曇天に笑う」、映画、アニメ「Psycho-pas」「亜人」などのBGMを担当。アジア、イタリア、ウィーン、アメリカ、オーストラリアと国際的に活動。