【音楽】君塚仁子(フルート、オカリナ)&綱川泰典(フルート)インタビュー

「コバケンとその仲間たちオーケストラ」が誇るフルート奏者、君塚仁子さんと綱川泰典さん。2018年の飯山赤十字病院に続き、今年も須坂市でアウトリーチ・コンサートを行ってくださいました。この日のコンサートでは、君塚さんはオカリナを演奏されていましたが、「コバケンとその仲間たちオーケストラ」ではともにフルート奏者。オーケストラについて、同じ楽器を弾く仲間として、などについてのお話を伺いました。
アルクマくん
お二人それぞれ、「コバケンとその仲間たちオーケストラ」に参加される経緯と、このオーケストラの魅力について教えてください。
君塚さん
私は今はオケにいらっしゃらないんですけど、先に参加されていたオーボエ奏者の方が声をかけていただいて。「ぜひ、キミちゃんの音がほしい」と言ってくださったので、私も「入団が叶うならお願いします」とお願いしました。そのときは必ずしもボランティア精神から入ったというよりも、小林先生の素晴らしい音楽に触れられるという気持ちでした。オケでさまざまな方と知り合ううちに、演奏家同士というよりは、心を通わせる関係になっているのを感じます。コンサートでもお客様が本当に喜んでくださる様子がほかのオケなどのときとは違って、双方の心が密に通い合う、ジーンとするような瞬間をいつも感じさせていただいているんです。それこそが「コバケンとその仲間たちオーケストラ」の本当の魅力だなと思います。
綱川さん
僕は入団まで紆余曲折ありました。音大では全盲で管楽器をやっている人がいなかったんですよね。そのときに成績は足りていたのに障がいを理由にとあるオケに入れないということがあって、不条理を感じてそこからオケを断念していたんです。大学を卒業してしばらく、知り合いに誘われて行ったコンサートで度肝を抜かれたんですね。それが小林先生が率いたハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団でした。演奏ももちろん素晴らしいんですけど、君塚さんがおっしゃったように、最後に観客全員がスタンディングオベーションしてくれたんですけど、その拍手の音が違うんです。こういう素晴らしいコンサートに一生に一度でいいから出てみたいなと思ったんです。それから10年くらいして、NHKから障がいのある奏者が何人か、「コバケンとその仲間たちオーケストラ」と演奏会を行なう機会がありました。でも実は最初はお断りしたんです。障がい者だからと頭数みたいな形でかかわるのは、小林先生のオケだからこそ嫌だったんですね。オケにとって必要な音だからと呼んでいただけるように、もっと頑張ってからとお断りしたんです。ただそのときに担当の方が何度もコンタクトを取ってくださって、それならとコンサートに参加させていただくんですけど、そのあとでお声がけいただいて、まさか「コバケンとその仲間たちオーケストラ」にメンバーとした迎えていただけるとは。そういう意味では感謝感謝でございます。このオケは、一つになって同じ方向に向かって進める可能性が非常に強くあると感じています。外国からのすごいプレイヤーもいらっしゃれば、アマチュアの方もいらっしゃるし、我々のような障がいを持つメンバーもいる。その共通点は、小林先生の音楽を愛しているということ。そのつながりで一つになっていけるし、観客だけではなく奏者にとってもそれが最終的に感動に結びついていく。そういうオーケストラは唯一だと思います、世界を見渡してもないんじゃないかと思います。本当に貴重なオーケストラだと思います。
君塚さん
本当に。障がいがある方、障がいがない方、オーケストラとお客様、みんなが溶け合う瞬間を共有できるんです。最後に客席に向かってみんなで手を振ってお別れするんですけど、そういう融合があることがすごく感動的で、意義のあることをさせていただいているかなと思って続けさせていただいています。
アルクマくん
小林監督には“炎のマエストロ”というキャッチフレーズがありますが、どういうところに感じられますか?
君塚さん
演奏をさせていただいていても、ほとばしるような瞬間があるんですよね。音楽にものすごく、尋常ではない情熱を傾けていらっしゃることも炎に当てはまると思います。コンサートやリハーサルの中で、こういうふうにやってほしいというリクエストがあるんですけど、それが静かではなく、ズパン!と強烈に響いてくる。そういう率直なところに感じます。
綱川さん
炎って真っ赤であったり、青であったり、白であったりいろいろあるじゃないですか。コバケンさんも一つの色だけではなくて、静かな炎があったり燃え盛る炎があったり。それからお客さんにとってははつらつと指揮をされるアクションが炎に見えるかもしれませんが、僕が思うのは演奏家一人ひとりに炎を灯してくれているような気がするんです。
君塚さん
あ、すごい、それはわかるなあ!
綱川さん
みんながそこに集中することで炎をたぎらせていくみたいな。普段は冷静な奏者たちが、コバケン先生の指揮になるとなぜか刺激されて、いつもと違う音が出るんですよ。今度のコンサートでもそうでうすが、学生さんや一般の方が参加されることが多いんですけど、我々が管楽器なので、吹奏楽部の高校生などが来たときに、命に火が灯ったようになっていくんですよ。最初の音はお利口さんの音なんだけどどこか生気に欠けるんだけど、マエストロの一言で一気に、命が芽吹いていく。そういう音が彼らにとっては喜びなんですよね。普段出したことのないような音が出ると。炎ってそういう生命につながるようなところがあると思うんです。
君塚さん
本当にそう! 上手いこと言うなぁ。私がもごもご言っていたこともそういうことなんですよ。整然とまとめてくれました。
アルクマくん
小林監督は普段は穏やかな印象ですよね。タクトを持つと豹変される感じですか?
綱川さん
いえ、必要な瞬間に必要なエネルギーを発揮される方なんじゃないかな。もちろんエネルギッシュな方ではあるんですけど、普段のように穏やかな雰囲気でタクトをお持ちになることもあれば、演奏の音を聞いていて自分が出すぎてはいけないと感じられたときはすっと身を引かれることもある。リハのときなんかいつの間にか客席にいたりね(笑)。でもやっぱり一つの音楽を作る、「いくぞ!」というときはすごいエネルギーを発揮されますね。
君塚さん
うん、そうですね。スイッチのオンオフが激しく見えるのかもしれませんね。
アルクマくん
お二人はフルート奏者なわけですが、お互いのことをどんなふうにお感じになっていらっしゃいますか?
君塚さん
綱川くんはすごくイマジネーション豊かな音楽を演奏されるんです。音を聞くと、そこには情報量がいっぱいなんですね。「こういう世界はどう?」という感じでいろいろ見せてくれるんですよ。それに対して「だったらこういうふうにお返事してみよう」というやりとりをさせていただける幸せ、そこに尽きます。音楽の世界の広がりを感じさせてくれる素晴らしい演奏家なので、一緒に演奏させていただくと、今度はどんなことができるんだろうという気持ちになれてリハーサルがいつも楽しい。演奏家の方はもちろんいろいろな世界を持っているんですけど、綱川くんは時間、空間が独特で、それが私にはとても心地よく、リスペクトしています。
綱川さん
まったく違う楽器であれば、いろんなアプローチができる。楽器が同じだと、かえって相性の問題が出てきてしまうんです。だからお互いを知り合って、接点を生み出していくことが必要になる。君塚さんは僕にとっても心地よい音色を持っているので大好きなんです。実は僕の方もこんなことを提案しようかなという思いにさせてくれる。コンサートの中でも、どちらがメロディ、伴奏を担当しても、オケで言うならファースト、セカンドが入れ替わってもそれぞれ充実した世界観を共有できるという部分は僕らの魅力の一つだと思います。
アルクマくん
なるほど。お互いを刺激し合う関係なんですね、今度のコンサートではそういうところも注目して拝見することにしたいと思います。
プロフィール
君塚仁子(フルート/オカリナ)
フルート&オカリナ奏者。東京都出身。聖徳大学短期大学部音楽科、専攻科、研究音楽専攻卒業。ソロ、室内楽、オーケストラなどで演奏する一方、フラメンコ舞踏楽団ピオネロに所属、オカリナでは2つのユニット「ゴシキヒワ」と「君塚トリオ」の両ユニットのリーダーを務める。

綱川泰典(フルート)
フルート奏者。埼玉県出身。武蔵野音楽大学卒業。「ウィンズ・ソロコンテスト」金賞及びヤマハ賞など各賞を受賞。全国各地をはじめカーネギーホールやウィンザー城での演奏など海外でも活躍。筑波大学付属視覚特別支援学校非常勤講師。