【演劇】軽井沢「大人のためのレジデンス施設に俳優の声が響きわたる」

 信濃追分にある「油や」さんは、かつて堀辰雄、立原道造、加藤周一ら文士・知識人たちが好んで執筆に利用した宿でした。現在は、NPO法人「油やプロジェクト」さんが「信州追分文化磁場 油や」を名乗り、文化的活動(本・アート・クラフトなど)の拠点として運営をされています。古本屋あり、ギャラリーあり、カフェあり、宿泊スペースありの空間は、文化専門のドンキホーテ、あるいはのんびりと時間の流れるヴィレッジヴァンガードのようでもあります。

 美術のジャンルではアーティスト・イン・レジデンスの実績がある「油やプロジェクト」さんが(こんなステキなお部屋もあります ↑ 泊まれます)、新たに演劇のレジデンス&公演ができないかという思いから、トランクシアター・プロジェクトとの連携が始まりました。会場になったのは、一番広い「ギャラリー・一進」でした。

 いつもの8畳ほどのステージはさらに小さく、低く設えられていました。天井の梁に照明がセットされたり、椅子を幾重にも重ねた上に座布団をさらに数枚乗せた席もあり、もしかしたら「お誕生日会」というコンセプトがもっともしっくりきたのはここでの公演で、温かい雰囲気に包まれていました。

 また開場時間前には、ギャラリーを見て回ったり、古本を探したり、お茶を飲んだり思い思いの時間をのんびり過ごしているお客様の姿も。廻廊を進みながら会場に入るのは、なんだか探検をしているようでもありました。

 軽井沢周辺は台風19号で影響を受けており、またこの日も14時ごろから結構な量の雨に見舞われましたが、チケットを購入してくださったお客様は皆さん、笑顔で駆けつけてくださいました。いつもよりさらにステージと客席が近い空間は、お客様が一方的に舞台を観るというだけではなく、俳優にも見られている感覚にもなる不思議な関係ができ上がっていました。

 軽井沢辺りではたくさんの美術館や音楽を演奏できるホールやお店などはたくさんありますが、もしかしたら演劇の公演をやる場所は少ないかもしれませんね。そういう意味では、「油や」さんが演劇の場にもなってくださるとうれしいです。「油やプロジェクト」の斎藤尚宏さん、美術家でもあるナカムラジンさんも手応えを感じていらしたようです。