長野県芸術監督団事業

【美術】「シンビズム 3」長野県の戦後の現代美術史を飾る上で重要な作家に焦点を当てて開催!

 長野県芸術監督団事業の一環で、2017年より開催されている美術展『シンビズム3』の制作発表が、8月6日に行われました。県内美術館、博物館の学芸員が所属を超えて交流し、自由に議論できる場をつくり、また同じ立場で協議しながら信州ゆかりの出品作家を選定した展示で、3回目を迎えます。この取り組みは、県民への美術鑑賞の機会の拡大を図ること、長野県ゆかりの美術作家を支援していくこと、全国一の数を誇る美術館・博物館のネットワーク化を促進して学芸員の意識共有と質の向上を図ること、その結果として長野県全体の美術振興を図ることなどを目的としています。「シンビズム」のタイトルには「信州の美術の主義」という意味で、さらに「新しい美術」「真の美術」「親しい美術」などの意味も込められています。

この「シンビズム」は本江邦夫監督の監修のもとに行われてきました。2016年9月の芸術監督就任時に本江監督が「僕が監督だったらチームはどこにいるんだ。チームを作らなければ監督としての仕事はできない」と語ったことをきっかけに、県内の公立私立問わず美術館・博物館に声をかけ、当初20名の学芸員がワーキンググループとして集まりスタートしました(現在は28名)。本江監督から「現代美術のグループショーをやってみたらどうだろう」という提案があり、ワーキンググループの話し合いを重ねて結実しました。しかし、本江監督がこの6月3日に急逝されたことを受け今後の展開が注目されていました。

会見の冒頭、佐野晶子芸術推進室室長は「この事業の主催者としまして、監督亡き後、この事業をどう進めていくべきか非常に悩みました。改めてワークキンググループの皆様と今後の意向について確認したところ、来年度の『シンビズム4』まで企画の枠組みを決めているということもあり、ぜひ、『3』『4』と継続していきたいという意思が出されました」と継続を表明。また石川利江アドバイザーからは「『シンビズム』展は2020年を一つの集大成とするという本江さんのビジョンのもと、作家の選定、会場の設定もしておりました。今後、監督不在の形でやっていくわけですけど、監修として本江邦夫の名前を残したいというのが学芸員、主催者の意志でもございます。一方で、今後の計画ができているにしても体制への不安もいろんな形で出てまいりました。そうした検討の中で、長野県信濃美術館館長の松本透さんが顧問になっていただくことになりました。松本さんは本江さんの後輩として、東京国立近代美術館で長らくご一緒に仕事をされてきました。本江さんの美術への理想や理念もよくご理解の上で、大変多忙でいらっしゃるので主体的にということではありませんが、必要な時には学術的な立場からのアドバイスその他できることは、とおっしゃっていただきました」と語りました。

石川利江アドバイザー

過去2回の『シンビズム』は学芸員の推薦した現代美術の若手、新人の作家による展覧会でした。しかし『シンビズム3』は趣向を変え、長野県の戦後の現代美術史を飾る上で重要な作家に焦点を当て、物故者も含め14名の方のグループショーとなります。
大竹永明ワーキングループ議長によれば、「選定過程におきましても、これまで学芸員1人につき、1人の推薦作家を紹介する形でしたが、本年はワーキンググループ全員で作家を選び、複数の学芸員でお一人の作家さんを担当させていただくということになりました。その狙いは、学芸員間の議論を活発化させること、またより客観的な視点で研究や作品の評価をさせていただく」とのことです。

『シンビズム3』の日程、会場、出展作家は下記の通りです。

2019年9月21日(土)~10月14日(月・祝)
安曇野高橋節郎記念美術館 旧高橋家住宅主屋・南の蔵
大曽根 俊輔 眞板 雅文 米林 雄一

2019年10月12日(土)~11月10日(日)
上田市立美術館
甲田 洋二 丸山 雅秋 宮坂 了作 山内 孝一

2019年11月9日(土)~11月24日(日)
一本木公園展示館/中野小学校旧校舎・信州中野銅石版画ミュージアム
柿崎 順一 榊原 澄人 増田 洋美

2020年1月19日(日)~2月9日(日)
茅野市美術館
天野 惣平 塚田 裕 前沢 知子 吉江 新二

また当日、会見に参加したアーティストの皆さんからのコメントを紹介します。

右から丸山雅秋、宮坂了作、山内孝一の各氏

右から柿崎順一、増田洋美の各氏

塚田裕(中央)と前沢知子の各氏

丸山 雅秋
私の仕事は能と仏法の考え方を融合して、形にしたものです。テーマは「ある」ということはどういうことか。そして「関係」についても考察しております。形がある、見るというよりも、物を置くことで空間ができるということが僕の制作だと思います。

宮坂 了作
私はハプニングの創始者であるアラン・カプローに学びました。私の≪A・ファイア・フェスティバル≫という作品がカリフォルニアにありますが、日本を意識したA文字焼きを表したものです。アラン・カプローの最初のクラスで「あなたの原点は何か」と聞かれたとき、「私の原点は自分の家が農家である」と答えをしました。このような形で制作していかれているのも農家で食っていけるという背景がありますので、その原点を忘れずに制作をしていきたいと思います。

山内 孝一
私は30代半ばに病気をしまして、それまでは抽象表現主義を標榜し、制作していました。病気をきっかけにシステムの中の生きた身体、生身の身体に興味を持ち、それをテーマに制作をしております。今回の展示ではワークショップもやらせていただくことになっています。

柿崎 順一
フラワーアーティストとご紹介いただきましたが、花ばかりたくさん扱っていると経費がかかってしまいなかなか展示もさせてもらえません。美術館には水や生の木などを持ち込めないものですから、現在はその他の材料を使った作品が増えています。今回もそういった中で生まれたシリーズで大根に焦点を当てた作品、りんごの木を使った作品を発表させていただきます。また僕は片目の視力がないのですが、眼底出血したときの、目の中で血が飛び散る感じから着想を得た映像作品と立体作品もお見せしたいと思っています。ほかにもいろいろ準備しております。

増田 洋美
美大を出てはいるんですけど、ガラスという素材にとりつかれ、そこからがアーティストとしての出発です。まだ40年経っておりません若輩です。ガラスの取り憑かれた挙句、100個単位で作るようなことをしています。日本で個展を開いてもガラス工芸ということで美術関係の方は見に来てくれません。ガラスはやはり欧米だと思い、1999年からヴェネチアで制作を開始しました。ヨーロッパはガラスが大好き。変なものにすぐに興味を持ってくださる。幸いなことに7、8年日本でも注目をいただくようになりました。ただ大量な展示のために、輸送費がバカになりません。ご迷惑をおかけします。

塚田 裕
田んぼに関するインスタレーションと絵画を発表したいと思っています。稲作を始めて10年になります。稲作をやりながら考えたコンセプチャルな作品と、それと絵画としての人に見せられる強度の擦り合わせを考えていたので、こういう発表の場をいただいて、集大成ができるのではと自分でもワクワクしています。藁を使ったインスタレーションも美術館の中庭で展示できることになりました。量としては2トントラック10台分。しかも雪の中になると思うので、迫力あるものになるのではと思います。

前沢 知子
私は東京学芸大学の博士課程で教育学を研究しており、学校・教育、美術のコラボレーションを目指しています。今回は学校と美術館の架け橋になるような内容にしていきたいと思っています。具体的には学校や美術館でワークショップを行います。10メートル四方の布や紙の上に、生徒さんみんなで地域の色というものを考えていこうという内容です。それをもとに私自身が作品を制作し、茅野市の会場に展示させていただきます。なぜそんなことをしようと思ったかと言いますと、2000年にフランスに滞在したときに、密接に地域の人とかかわるうちどうしたら美術に心を開いてくれるかに興味を持ちました。その後もワークショップを200〜300くらい行う中で、子供というのはやはり地域で育つものなんだなという実感があり、できるだけ地域にかかわるようなワークショップをやりたいと考えるようになりました。そしてアートを通して、地域と教育の未来を開いていくような活動をしていきたいと思います。