メンバーは小林監督、「コバケンとその仲間たちオーケストラ」を切り盛りする奥様の櫻子さん、オーケストラのメンバーでヴァイオリン&ヴィオラ奏者の阿部真也さん。学校にやってきたときはラフな服装だったのに、児童が集合する教室に入ってきたときは、オーケストラの正装である黒の燕尾姿に。その堂々たるたたずまいに、子どもたちのドキドキは一気に高まったようです。あとで「集まってくださったお客様に、皆さんに敬意を払う意味で一番の洋服を着ているの」(櫻子さん)とその意味を教えてくださいました。
出前授業は「さあ、ここから!」という感じではなく、子どもたちと会話を交わすなど、触れ合いながら自然な流れでスタート。小林監督はピアノの前に腰掛けて、阿部さんにバトンを渡し、阿部さんが話す様子をニコニコと笑顔で見つめています。
阿部さんは「みんなと同じ年ごろのときにヴァイオリンと初めて出会い、その音色の虜になった」「高校は日本語を使えないアメリカンスクールに通い、3年生の途中でアメリカに渡ったけれど、そのときにはすでにヴァイオリニストになることを決めていた」などのお話をしてくださいました。
「このケースにヴァイオリンとヴィオラ、二つの楽器が入っているんだよ」。二つの楽器が一つのケースに入っていたことへの驚きなのか、いよいよ演奏が始まるという期待感からなのか、それまでも元気に反応していた子どもたちの声が一段と大きくなりました。「ヴァイオリンの縞模様はなんの動物に見える?」「弦の糸はどんな動物のものだと思う?」「オーケストラにはどんな楽器があるかな?」などなど、阿部さんのトークは子どもたちへの問いかけで進んでいきます。そうすることで子どもたちとの距離がどんどん近くなっていくのがわかります。
そしていよいよ、最初の演奏です。チェロのために書かれたサン=サーンスの『白鳥』を小林監督のピアノと阿部さんのヴィオラで披露します。伸びやかで優雅な音色に対し、須坂支援学校の子どもの中には、思わず感動から声を上げたり、マイケル・ジャクソン顔負けのムーンウォークや踊りを披露したりする子も登場。そう、こういう障がいのある子が健常の子と一緒に演奏を聞き、自由に楽しむことができる環境こそがコバケンとその仲間たちオーケストラのスタイルなのです。
トークの後半戦は小林監督の時間。「小学4年生のときにベートーヴェンを聞いて、涙があふれて、足元に涙の水たまりができた」「『月の砂漠』のメロディが転調する瞬間に身震いするほど感動した」などなど作曲家を目指すきっかけになったエピソードを披露。お母様に五線紙をつくってもらい、作曲家になることに反対だったお父様に隠れて家族が眠っている深夜に作曲の勉強を続けたことなど、小林少年の意志の強さを感じさせる話を、児童の皆さんはどんな気持ちで受け止めたでしょうか。きっと何か期するものがあったのでは。
小林監督はまだまだお話したかったようですが、そろそろ1時間の授業時間がタイムアップ。最後に、阿部さんが楽器をヴァイオリンに持ち替えて、小林監督のピアノと、ヴィットーリオ・モンティの『チャールダーシュ』を演奏して授業は幕を閉じました。
小林監督や阿部さんのお話の中には、たくさんの、そして大きな大きなメッセージが込められていました。いつ、どんな状況で人生が大きく動き出すきっかけと出会うかはわかりません。そのためには日々を好奇心いっぱいに過ごすことが、さまざまな新しい発見と出会いつながるというお話。今日の出前授業も、もしかしたら児童の皆さんにとって何か大きな夢へのきっかけになるかもしれませんね。