「コバケンとその仲間たち音楽祭 in 須坂」のメインイベントは、小林研一郎監督が指揮し、コバケンとその仲間たちオーケストラが勢ぞろいするコンサートです。8月4日(日)多くのお客様が演奏を楽しみました。また障がいを持った方々が健常の皆さんと一緒にコンサートを楽しめる場という趣旨もあり、さまざまな障がいを持った方々が招待され、濃厚な演奏に耳を傾けていました。
実はオーケストラの中にも何人か目に障がいをお持ちの演奏家さんたちが参加しているのですが、演奏ではまったくそのことを感じさせません。弛まぬ努力はどれほどのものなのでしょうか。同時に周りの演奏家の皆さんも自然にサポートしているのも、このオーケストラならではの魅力なのだと感じられました。
今回の演奏曲目は
1 歌劇『アイーダ』より「凱旋の行進曲」
2 「チゴイネルワイゼン」
3 交響詩「フィンランディア」
4 バッカサリアより「夏祭り」
5 「漸進打波」
〜休憩〜
6 マエストロコーナー
7 「レクイエム」二短調K.626よりラクリモーサ(涙の日)
8 序曲「ローマの謝肉祭」
9 荘厳序曲「1812」
10 アンコール
どれを取ってもメインディッシュ級の、聞きなじみのある曲が並んでいます。しかも曲ごとに朝岡聡さんの解説があり、趣向もバラエティに富んでいて、クラシック・ファンでなくても飽きさせないような構成になっていました。
華やかなファンファーレ・トランペットが印象的、コンサートのオープニングにはぴったりの歌劇『アイーダ』の「凱旋の行進曲」。長野県とは縁が深い「コバケンとその仲間たちオーケストラ」が1年ぶりにお客さんと邂逅する喜びが伝わってくるようでした。
「チゴイネルワイゼン」は、ジプシーの調べというタイトルが意味するように、奔放で情熱的な旋律が奏でられました。コンサート・ミストレスのヴァイオリニスト・瀬﨑明日香さんは朝岡さんのインタビューに「優しさと強さという相反する表現ができる曲。特にヴァイオリンを通して女性の思いを伝えられる。今日はそこに客席の皆さんの思いも加わって素敵な演奏になりました」とお話しされました。
交響詩「フィンランディア」は、メセナ少年少女合唱団、常盤中学の皆さんとともに。第二のフィンランド国家と表される曲で、中盤からの勇壮なメロディに「勇気が湧いてくるよう」と朝岡さん。ロシアの圧政に屈しなかったフィンランド民衆を讃える難しい歌は、子供たちが見事に歌いあげました。
バッカサリアより「夏祭り」は、小林監督が2000年に作曲した曲。車で2日かけて長崎からやってきた瑞宝太鼓とオーケストラのコラボで披露されました。まさに夏祭りのワクワクを表現するかのように、いろんな楽器が次々と名乗りを上げるように弾んだ音色をつないでいきます。その夏祭りの世界観を象徴するような瑞宝太鼓は、知的障がい者の余暇サークルとして発足したものの、「プロになりたい」というクラブ員の切なる声により活動をスタートさせた和太鼓チーム。今や日本だけでなく海外にも引っ張りだこの活躍です。ここに、その仲間オケのメンバーで、太鼓の振動を床から感じ取って演奏するという聾者の関根基成さんも参加、下手袖から一緒になって演奏する振りをしながら叩くタイミングを伝えていたスタッフさんも、ついつい熱くなってステージ側に競り出てきていました。
そして「漸進打波」は瑞宝太鼓だけの見せ場。勇壮の一言ですが、笑顔と大きなフォームで太鼓を叩く姿からは楽しさや喜びが伝わってきます。客席のお客さんからも元気な拍手が贈られていました。
第二部のオープニングは「マエストロコーナー」から。小林監督と司会の朝岡さんの気さくなトークが客席の緊張をほぐします。
小林監督が、昨夏に日本赤十字社で行われた、19世紀に活躍したハンガリーの医師センメルヴェイスの胸像設置式典で、今は上皇后となった美智子様がピアノを弾き、その仲間たちオーケストラのメンバーと代わる代わる何度も演奏の交歓をしたエピソードを披露。ちょっぴり美智子様の真似をするという茶目っ気も交えて。その流れで、トロンボーンの藤原功次郎さんが呼び込まれ、美智子様が涙ぐんだという「アメージンググレイス」を披露。続いて初日の『トスカ』に出演していた歌姫、ソプラノ歌手・生野やよいさんがオペラ『ジャンニ・スキッキ』から「私のお父さん」、レバノン生まれの今後が期待される若きテノール歌手のジョセフ・ダーダさんが「カテリーナ」を披露しました。
続く「レクイエム」二短調K.626よりラクリモーサ(涙の日)は、大人たちによる音楽祭記念合唱団、常盤中学校とともに。モーツァルトが作曲中に病いに倒れたという最期の曲で、自身も死の予感を抱いていたかのようなメロディ。ドラマチックな合唱はとても印象的でした、
序曲「ローマの謝肉祭」は前日のレクチャーコンサートでも演奏された曲。しゃべるパンフレットと自らを称する朝岡さんが、失敗したオペラの旋律を利用して管弦楽の曲を作り上げたのが本作であることを説明してくださいました。途中で流れるオーボエのソロが印象的でした。
そして最後は荘厳序曲「1812年」で締められました。ナポレオンのロシア遠征によるフランスとロシアの戦争を題材に作曲されたもので、オープニングのチェロとヴィオラのソロはまさに荘厳。何度も顔を出す軽快なフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」のフレーズはフランス軍の優勢を伝えます。しかし、やがてロシア帝国国家の荘厳な調べが強くなり、「ラ・マルセイエーズ」のフレーズが短くなったりよたったりでロシアを攻めあぐねている感じが伝わってきます。
クライマックスの大砲の音は、2台の和太鼓で表現されました。一台は、関根さんが叩いていました。大砲はロシア軍が放ったもので、続く鐘はロシア軍の勝利を伝えるものです。
3日間の音楽祭は、趣向を凝らした内容で、お客様を楽しませてくださいました。メセナウィンドオーケストラ、信州大学交響楽団、信州大学吹奏楽団、音楽祭記念合唱団、メセナ少年少女合唱団、常盤中学校の皆さんもご苦労様でした。プロのオーケストラとの共演はいかがだったでしょうか? きっと得るものがあったのでは。
クラシックといえば、専門家でないと敷居が高い印象がありますが、小林監督もオーケストラの皆さんもとても気さくで、お客様にも近い関係性を作ってくださいました。だから、もっともっといろんな方に聞いてほしいものです。今度はどんな演奏を聴かせてくださるのか、今から楽しみでなりません。
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そうそう、最後にバックステージの様子も少しだけ載せておきましょう。