“炎のコバケン”ことマエストロ・小林研一郎長野県芸術監督(音楽)は、長野県とはとっても縁が深いのです。2005年3月、その趣旨に賛同してスペシャルオリンピックス冬季世界大会・長野の公式文化事業として白馬村でコンサートを開催しました。それ以来、茅野市での「蓼科高原みずなら音楽祭」、飯山市での「なちゅら音楽祭」と、「コバケンとその仲間たちオーケストラ」とともに素晴らしい演奏を披露してくださっています。そして今年は、須坂市文化会館メセナホールに登場します。プレ事業のために須坂入りした小林監督にお話をうかがいました。
小林監督は、長野県とは縁がとても深くていらっしゃいます。芸術監督団も4年目ですが、どのような思いをお持ちでいらっしゃいますか?
長野県芸術監督団事業については、阿部守一知事、近藤誠一県文化振興事業団理事長(元文化庁長官)からいろいろ託されたものがございました。県民の皆さんの心の中に入り込めるような音楽づくりをしてほしいということで、その試みの一つとして、今回のように子どもたちの心に直に触れ、僕自身が過ごしてきた日々のことを話すという形の出前事業を行ってきました。今回も、子どもたちが心を開くところまで行けたことは、とてもうれしいですね。なんと言っても思春期ですから、心を開かずに、黙って聞くうちに寝てしまうような状況になってしまわないかという不安もあったのですが、そんな危惧の必要はまったくありませんでした。そして子どもたちの心の声が聞こえてくるような気がしてとてもうれしく感じられました。
――須坂の子どもたちはいかがでしたか?
僕が一番驚いたのは、常盤中学の生徒さんたちでした。最初はしんとして食いつきにくいのかなと思ったのですが、でも心の中はとっても広く僕たちの言葉を受け止めてくれて、最後は贈り物として校歌を歌ってくれた。そういうお気持ちに関しては感動でいっぱいになりました。午前中に出会った須坂小学校、支援学級の子たちについても同じです。脈打つ子どもたちの力というものを感じました。そして、この子どもたちが今度のコンサートやリハーサルを聴きに来てくれて、質問などが飛び交うと僕にとってはとてもうれしいんですけどね。
こういう小さなころから、最高の芸術、最先端で活躍されている方たちと触れ合う機会があることをとてもぜいたくに感じました。
次世代につながると一番いいんでしょうけど、僕らはそこまでは考えておりません。何かの考えるきっかけの種にでもなればそれでいいのではないでしょうか。逆に若い人の力、エネルギー、そういったものを僕も貪欲に浴びながら、これからの自分の行く道に光が差してくればいいなと思いますね。そして実際にそうなっているんですよ。自分が若いころ、こうだったなあって子どもたちにお話ししながら人生をたどっていかれるのは本当に楽しいことです。そういう意味ではとても得難い経験をさせていただいています。
――改めて、監督の言葉で「その仲間たちオーケストラ」の皆さんについてご紹介いただけますか?
これは自分たちの宣伝になってしまうと嫌なんですが、仲間たちオーケストラというのは広く健常者もそうでない方々も、老いも若きも一緒になって音楽を楽しもうということで、そういう思いを共有できる演奏家のみなさんが一堂に会してくれています。素晴らしい音楽を通して、お客様がそうした独特の心に触れる時間を生み出せたらと思っているんですね。演奏家の人選に関して僕は一切タッチしておらず、オーケストラのプロデューサーを務める妻に任せているのですが、とても素敵な心持ちの演奏家ばかりです。そういうみなさんと心を一つにできることを糧としてこれからも進みたいと考えています。
地域の方にメッセージをお願いしたいのですが。
今回、須坂のメセナ市民交響楽団、メセナウィンドオーケストラ、長野県内の市民合唱団有志、メセナ少年少女合唱団、信州大学の皆さんとも共演できるのをとても楽しみにしています。そういう音楽に親しんでいる市民の方もバックアップしてくださっているということもうかがっておりますが、とてもありがたいことです。またこの芸術監督団事業を支えてくださっている須坂の皆さんのお力には感謝でいっぱいです。須坂の文化がより一層、たくましく、美しく、豊かになりますよう念じながら、演奏会をしたいと思っています。
小林研一郎
1940年福島県生まれ。指揮者。東京文化会館音楽監督、東京音楽大学及びリスト音楽院名誉教授。第 1 回ブダペスト国際指揮者コンクール第1位、特別賞受賞。ハンガリー国立交響楽団音楽総監督、日本フィル音楽監督、アーネム・フィル常任指揮者をはじめ、国内外のオーケストラのポジションなどを歴任。ハンガリー政府よりリスト記念勲章、ハンガリー文化勲章、星付中十字勲章、2010年ハンガリー文化大使の称号が授与されている。2011 年文化庁長官表彰を受ける。2013年秋の叙勲で旭日中綬章が授与された。2011年より毎夏、茅野市にて蓼科高原みずなら音楽祭を主催。現在、日本フィル桂冠名誉指揮者、ハンガリー国立フィルおよび名古屋フィルの桂冠指揮者、読売日響の特別客演指揮者、九州交響楽団の名誉客演指揮者、東京文化会館音楽監督、東京藝術大学、東京音楽大学及びリスト音楽院名誉教授、群馬交響楽団ミュージック・アドバイザーなどを務める。2016年長野県芸術監督団(音楽分野)就任。