大町市では串田さん、武居さん、下地さんの「或いは、テネシーワルツ」公演における「観客と演者の距離感の近さ」というテーマを中心にプロジェクトを組み立てて来ました。
大町市では、「原始感覚美術祭」や、今回会場になった地元作家達のギャラリーである「麻倉」での作品展示や音楽・演劇イベントの開催など、多様な文化活動がもともとありました。
それに加え、2017年初夏から市を挙げて行われた、北川フラム氏のプロデュースによる「北アルプス国際芸術祭」の開催もあり、「お題目だけではない文化都市とは一体どういったものであるのか?」、という問いが大きな意味を持っていました。
私たちは、今回のプロジェクトをこの問いへの自分たちなりの答えにしたいと思って取り組んできました。
その中の一つが、「サッカー部よりかっこいい演劇部プロジェクト」と題して、地元の岳陽高校の演劇部と公演までの期間で取り組んできたワークショップです。
私たちは、地域で演劇・文化に参加する者たちが、本当に自分たちの行っている表現活動を愛し、それに強いプライドを持つことが出来る環境こそが、「文化都市」であると考えたからです。
このWSは、「劇団たぬき王国」の三井さんに手引きをお願いする形で3回行われました。7月の29日には演劇公演のプレ開催イベントとして、WSの成果を即興演劇として発表しました。
三井さんには演劇部への指導、そしてイベントにむけて学生たちと即興演劇を作り上げる取り組みを行っていただきました。
このWSのテーマは「舞台上で大切なことは自身の演技はもちろん、他の演者の”演技を受け止める準備”を常にしていることである」ということであったと思います。
演劇部の指導者である幅先生の本当に柔軟な受け入れがあり、これを通じて私自身も驚くほどの絆が演劇部内に生まれたように感じました。
最終的に私たち実行委員会の有志は、学生たちと演劇を通じてお互いの人生について語りあい、それを踏まえてお互いに告白の演技をするというWSまで行うことになりました。
ちなみに私自身はそのWSにおいて男子学生に告白相手として呼び出されたのですが、その子とはいまだに街であうと告白合戦?が始まります(笑)。
本当に素晴らしいWSであり、7月の29日に行われた発表もまさか数回のWSで準備したものとは思えないほどのものになっていたと思います。
そして我々には上記の「サッカー部よりかっこいい演劇部プロジェクト」の他、もう一つのテーマがありました。それが「一生演劇」です。
我々の実行委員会にも、様々な形で演劇に関わる人たちがいました。月に一度ぐらいは家族と演劇を見に行く者、演劇のWSなどにも参加し、演者としての楽しみにも触れている者、演じることを人生の葉や枝ではなく、むしろ幹とし、一か月以上の練習にたびたび参加する者。そして私たちの地元にも観劇を楽しみに自分たちで劇団を誘致しているグループや、もちろん演劇にそこまでの関心の無い層まで様々な方がいました。
それらの多様な楽しみ方や距離感の包摂が、大町市における演劇という文化の浸透に重要だと考えた私たちは、生徒たちの発表を行った29日に、上記の多様なメンバーによって対話型のシンポジウムを行いました。
私を含め、参加した大人たちも、それぞれの演劇観に刺激を受けましたが、私たちの最大の狙いは二つのテーマが結びつくことによって、生徒たちにとって、「一生演劇」に関わっていく、そのビジョンをもって貰うことでした。
どのぐらいの効果があった、ということを今語るには難しい取り組みですが、何かを子供たちの中に残せていたら嬉しいと思っています。
公演当日にも、様々な取り組みを行いました。公演場所である「ギャラリー・麻倉」には地域の子供たちの描いた絵や、地域の人々や学生たちでこの日のためにWSにて作った「飾り雛」が会場装飾として人々を迎えました。
これは「或いは、テネシーワルツ」のテーマの一つである”記憶”に係る形で、”地域の記憶”を意識したものでした。
また、当日行われていた「浴衣まつり」という地域のお祭りの連携として、広報を兼ねたチンドン屋が街を練り歩きました。
これも地域の芸術家やアーティストら有志によるものでした。
地域の方たちのお酒のふるまいに預からせてもいただき、思いがけず温かな交流をもつことも出来ました。
テネシーワルツの前座として行われたのは、浪曲の演目でした。主に松本を中心に活動を行っている若手演劇家の”前田斜め”氏と三味線の”平井洋大氏”による演目は、実は以前も大町市で行ったことがあり、地元のおじいちゃんにファンもいました。
この要請にこたえる形でお呼びしたお二人の今回の演目は「雷電と八角」。主人公である雷電は、今年優勝した御嶽海以前に本場所にて優勝した208年前の長野県出身の力士ということで、聞き手も熱が入ります。
聞き手に熱が入ると、演じ手もますます熱が入る。熱い熱い拍手喝采にて終幕しました。
前座も終わり時刻は六時をまわり、日が落ちてくると、「或いは、テネシーワルツ」を目的としたお客さんたちが次々と集まってきました。年配の方にお話を伺うと、自由劇場からの串田さんファンの方も・・・。
学生たちもやってきて、会場には本当にいろいろな世代のお客様がいらっしゃいました。最終的には麻倉は当日券のお客様もおり、当初予定想定していたキャパシティを超えて、60名で満員となりました。
これには麻倉併設のカフェをやっているスタッフさんからも、「麻倉はじまって以来の人数では?」と言われるほどでした。
イベント報告のここでは「或いは、テネシーワルツ」そのものへの感想や言及は差し控えますが、終演後のアフタートークにも、夜遅く、かつ場所を変えたにもかかわらず20名ほどの方がきてくださいました。
ここでも、連日の移動を伴う演劇でお疲れもあったにもかかわらず、串田さん、武居さん、下地さんはお客さん、そして生徒たちに真摯に向かい合ってくださいました。
アフタートーク終演後にもまだまだ話足りないと出演者の方々と話し込むお客さん方を見て、私は今回のプロジェクトを行って本当によかったと思ったのでした。
私たちは今後も、大町市にて演劇をはじめとした文化芸術の振興に努めていきたいと考えています。
出演者のお三方はもちろんのこと、連日の公演にも関わらず、疲れも見せず朝から夜まで現地でも設営などを行ってくださったまつもと市民芸術館や長野県文化振興事業団の方々、地域の方々の協力、そして実行委員会の皆の支えによって、今回のプロジェクトは成功裡に終えることができたと思っております。本当に皆さまありがとうございました。
文:中村直人(トランクシアター大町プロジェクト 実行委員長)
『或いは、テネシーワルツ』についての情報は以下のページをご参照ください
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