マエストロ・小林研一郎芸術監督とともに、須坂市、飯山市で出前授業を行なったヴァイオリニスト、ヴィオリストの阿部真也さん。「コバケンとその仲間たちオーケストラ」のメンバーでもあります。すべての出前授業を終えた後、須坂市でのコンサートに向けてお話をうかがいました。
昨日、今日の感想がいかがですか?
須坂市でも飯山市でも、最初はあまり反応が無かったんですけど、時間の経過とともにどんどん発言が増えていきましたよね。それは心を開いてくれたんだと思うんです。子どもたちが「この人たちは何を言わんとしているのだろう」と、1時間という短い授業の中で、それなりに僕らのことを探ろう、見ようとしてくれていたのは、彼らの目線だとか時おり見せる笑顔から感じられましたね。一生懸命に心で聞こうとしてくれているのを感じました。
小林監督にもお伝えしたのですが、こういう出前授業を体験できるのは、すごくぜいたくだし、うらやましいなあと思いました。
あぁ、そうですね。私も実家が本当に田舎の田舎でしたから、僕も子どもたちの中に混じって小林先生のお話をうかがっていたときに、こういうことが自分が小学4、5年生のときにあったらどうなっていただろうなと考えていましたね。ただ少し前の日本であれば、目上の方、先輩の話を聞くということが日常的にあったことなんだけどなぁということも合わせて感じました。それが今や難しい社会であることは残念ですよね。だからぜいたくだなとおっしゃっていただくことはうれしいんですけど、もっと自然であるべきなんだということは、こういう授業をやらせていただくたびに思います。
阿部さんは「コバケンとその仲間たちオーケストラ」のメンバーとして、長野県でも多くの活動をされています。一言では難しいと思うんですけど、阿部さんにとって、小林研一郎さんはどんな指揮者でいらっしゃいますか?
僕が知り得る音楽界の中では、オーケストラ奏者に対して、もっとも感謝をしてくださっている指揮者だと思っています。小林先生は指揮をされている最中でも、随所にそういうお気持ちを表すジェスチャーが入ってくるんですよ。僕も指揮をするんですけど、小林先生のように演奏中にそうした仕草を入れるようにしています。いいソロを吹いてくれた奏者にグッドサインをされたり、「その音、その音」という表現ができていたらうなづいたり、敬意を表してくださる。僕も一緒に演奏していても愛に満ちあふれていると感じるんです。そういう意味で、その時にしか出てこない音楽を産み出せる、演奏者としても表面的ではなくて心から生み出したくなる指揮者ですね。
小林監督には“炎のコバケン”というキャッチフレーズがありますが、その部分はどんな瞬間に感じられますか?
僕は愛の炎だと思います。それほど愛される、愛せる指揮者。炎の解釈はいろいろあると思うんですけど、火傷するような熱さではなく、包み込むような暖かさ。今まで感じたことのない、愛に満ちた人間らしさ。小林先生はもちろんはるか高見のところにいらっしゃる方ですけど、いろんな人のそばにふっと寄り添ってくれるんです。とても人間が大切にしなければいけないものをお持ちなんです。[/box]
それでは「その仲間オーケストラ」はどんな特徴があると言えるでしょうか?
人種であったり、性別であったり、あるいは障がいの有無であったり、いろんなものに壁をつくらずフラットでいられる演奏家、そして小林先生の音楽に惚れている演奏家が集っているオーケストラです。またその思いを全身で、音楽を通して表現できる。しかも演奏家同士も垣根がないから、それぞれが助け合って、補えるものは補いながらということが普通に行われている。それって非常に稀なんですよね。ここに参加させていただいて10年になるんですけど、僕が知る限り世界でひとつですね。それでいい人たちなんですよ。だって普通はヴァイオリニストだったらコンサートマスターを目指すものじゃないですか。でもここではそうした自我は求められていない。だから誰がどの位置に座ってもいいんです。「今回は後ろからみんなを見ながら演奏させてよ」と言ってもオッケーなんです。コンサートマスターはまとめるのが役割だからその位置にいらっしゃいますけど、時には後ろに座ってもいいと思っている人なんです。そういういろんな垣根を取り払った、僕にとっては大切なオーケストラです。
須坂でのコンサートにはどのようなことを期待されていますか?
市民の方が少しでもいいから「来てよかった」と思ってくださるように、小林先生とオーケストラが一丸となっていい演奏をお届けしなければいけないと思っています。この事業に関する須坂の皆さんのサポートを感じるからこそ、いい演奏にしなければいけないと思うし、東京にいるうちから準備をしなければいけないと思っています。そして、その様子や空気を僕は演奏者として見て感じてきたわけですから、メンバーの皆さんにそのことをしっかり伝えなければいけないと思いました。演奏はもちろん、雰囲気も含めていいものをつくらなければいけないと思います。とても楽しみです。
阿部真也
ヴァイオリニスト、ヴィオリスト、指揮者。幼少よりピアノを、13 歳よりヴァイオリンを始める。その後渡米し、サンフランシスコ音楽院ヴァイオリン科、ヴィオラ科を修了。2005年より拠点をドレスデンに移しオーケストラ奏者・指揮者として研鑽を積む。2006年に第1回コルドバ国際指揮者コンクール入賞。2007年よりエドワードサイード音楽院ベツレヘム校教授に就任し、同音楽院オーケストラ、パレスティナユースオーケストラの音楽監督も兼任。現在は同音楽院客員教授、客演指揮者として籍を置いている。また2007年より「阿部真也と仲間達室内楽シリーズ」を主催。2009年より小林研一郎氏率いる「コバケンとその仲間たちオーケストラ」の首席ヴィオラ奏者に。2010年から2年間ロームミュージックファンデーションより、在外研究生として助成を受ける。2011年にはサンフランシスコ交響楽団弦楽合奏団を指揮しデビューし好評を得る。2011年山田和樹氏率いる横浜シンフォニエッタとヴィオラソリストとして共演。2012年にはCHANELピグマリオン室内楽シリーズのヴィオラ奏者に選ばれる。2014年より横浜シンフォニエッタ ヴァイオリン、ヴィオラ奏者。アスペン、ナント・東京・ラフォルジュルネ、Ebb&Flow Art マウイ、ロストロポービッチ、アフィニスin山形などの音楽祭に出演。現在はラインハイト室内楽アカデミー、音の輪音楽教室ヴァイオリン、ヴィオラ各講師。日本、ヨーロッパ、アメリカでオーケストラ、室内楽、ソロ、客演指揮者として数多くの演奏会に出演。使用しているヴィオラは元日本フィル首席ヴィオラ奏者で原宿アコスタディオ代表、故・赤星昭生氏が使用していた名器「1665年ヤコブ・シュタイナー」をアトリエ de Mari代表、伊藤怜子氏の協力のもと譲り受ける。今までにヴァイオリンを仲島環子、川口美枝子、杉田幸仁、Sarn Oliver、Mariko Smiley、Susan Leon,Camilla Wicks、Wei He各氏に師事。ヴィオラをJodi Leiviz、Catharin Carrol 各氏に師事。指揮をDavid Zinnman、Alasdair Neal各氏に師事。室内楽をMark Sokol、Menamamm Presler、Robert Mann、原田禎夫各氏に師事。