【開幕直前インタビュー第3弾】制作・伊藤茶色が語る『そよ風と魔女たちとマクベスと』


2020/10/04 (日) 更新

【開幕直前インタビュー第3弾】制作・伊藤茶色が語る『そよ風と魔女たちとマクベスと』

上田市の文化の拠点として、さまざまな作品を発信している小劇場「犀の角」のスタッフとして、企画に携わったり、照明を担当したり、または自身がプロデューサーとして作品を立ち上げたりもしている伊藤茶色さん。2019年はトランクシアター・プロジェクト2019『月夜のファウスト』の照明担当として、今年は『そよ風と魔女たちとマクベスと』に制作として長野県芸術監督団事業に携わっている。高校の演劇部を経て、地元・上田市の劇団の制作担当者として演劇のキャリアを積んできた伊藤さんですが、プロフェッショナルに囲まれた現場は長野県芸術監督団事業がほとんど初めて。県内で活動するスタッフに経験を積んでもらい、次の世代につなげていくのも、この事業の目的の一つ。果たして伊藤さんはどんな体験をしているのでしょうか。

――昨年のトランクシアター・プロジェクト2019『月夜のファウスト』に携わった感想から教えてください。

伊藤 『月夜のファウスト』では、稽古から県内をあちらこちらツアーさせていただいた時間の中で、自分自身が演劇に向かう姿勢、舞台の照明家として作品に向き合う姿勢について、すごく考えることができたと思うんです。と言うと充実していた感じに聞こえるかもしれませんが、結果的には自分の中で考えた照明プランを、演出をされている串田さんに具体的な形で提案することが最後までできませんでした。それはとても悔しいことでしたが、作品にかかわる以上、単に照明家という技術者としてそこにいるのではなく、照明を担当するアーティスト、遊び心を持った人間としていなければいけないなという自覚が芽生えました。

ああああ

(写真:トランクシアター・プロジェクト2019『月夜のファウスト』より)

――昨年は、そのツアーが終わった後に、すぐに上田街中演劇祭に照明家として合流したんですよね。

伊藤 『月夜のファウスト』では、高くもなかった鼻を勝手に自分で折ったんですね、何もできなかった私自身への自虐の念が強すぎて。ツアーの最中も、ずっと周りのスタッフさんに、そんなに気負わなくていいよ、抱え込まなくていいよと声をかけていただいたり、心配していただくような状況で居続けてしまったことも申し訳なくて。ツアー直後はもう私は照明に向いていない、すべてを辞めようと考えるくらい落ち込みました。

そんな中、上田街中演劇祭で、国内外で活躍しているダンサーの山田せつ子さんが、上田近辺で活動するアーティストさんたちと一緒にダンス作品をつくる企画に遅れて参加したんです。せつ子さんが作品に向き合っている姿とか、共演するアーティストさんたちに投げかけている言葉が、私が串田さんからかけられた言葉や、足りなかったと気づいた部分にすごく重なって。どんな立場であっても作品づくりに参加するのであれば、大事にしなければいけないこと、全うしなければいけない役割があるんだと改めて気づいたんです。
たった一カ所ですが、これだけは実現したいという明かりのアイデアを、せつ子さんが採用してくれたんです。それがとても嬉しくて、やっぱり私はクリエイションという場が好きなんだ、作品をつくる現場にいたいと思い直したんです。

――悩んだ体験から、自分が責任を持って照明プランを出すという覚悟が備わったのかもしれませんね。

伊藤 だと思います。思いたいです。その後、串田さんが率いる劇団TCアルプの『jam』という作品にも照明として呼んでいただきました。『jam』では、舞台セットとして一つの大きな箱を舞台上に組んだのですが、私には箱に明かりを入れるという感覚がわからなくて、またもや思考停止してしまい、舞台監督に心配をおかけするなど迷惑をかけてしまいました。本当に明かりって難しいなって思います。そんな中でも串田さんが「こういう明かりがほしい」とおっしゃることも、言われた理由がつかめると、その必要性がすごくよくわかるし、素敵なんですよ。そういう発想がどうやったら出るんだろうって、悔しかったですね。

――串田さんがイメージする照明は、ほかの演出家のようにわかりやすいものではありませんし、豆電球を使ったり、独特のセンスがありますね。

伊藤 私が串田さんから言われた言葉で、ショックだったけれど一番うれしかったのは「茶色の明かりには色気がない」ということでした。「情緒が足りない、情緒を表現するにはどうしたらいいかをもっと考えなさい」と、真っ直ぐ目を見て言ってくださったんです。グサッとは来たけれど、伝えていただいたことで課題を持つことができました。

――そして『そよ風と魔女たちとマクベスと』です。今回はどんな役割をされていらっしゃるのですか?

伊藤 実は今回は、最初からプロデューサーの津村卓さんから「制作で」と言われていました。役者さんやスタッフさんが稽古に専念できる環境をつくる役割です。私の所属していた劇団が活動を休止して、私も照明でいくのか制作でいくのか、どっちつかずでいたんです。自分でもモヤモヤしていて、今回は制作に重点を置いてみようと。ただ実際に現場でやっている内容は演出助手に近いです。『月夜のファウスト』ではTCアルプの細川貴司さんがやられていたお仕事ですね。今回は細川さんに役者に専念してほしいということで、串田さんが「茶色を俺の横に置いておけ」とおっしゃったそうなんです。串田さんが役者さんに指示したアドバイスを整理したり、次の日の稽古の内容を相談したり、串田さんが皆さんに伝えたいことをメモして準備しておいたり、日々の稽古の日記を書いたり。私自身、初めて経験する仕事ですが、串田さんからは「初めてだからわからないこともあるだろうけれど、できるできないは構わない、自分の役割に全力で取り組みなさい」と言っていただきました。

――現場での手応えはいかがですか?
伊藤 常に串田さんの横にいるんですよ。そして串田さんの言葉をメモしたり、その日の稽古の内容をまとめたりしていると、串田さんがどんな作品をつくろうとしているのか、そのために何をしようとしているかが見えてくるんです。それはつまり作品がどうやって立ち上がっていくかを、ある意味、現場の中でも最前線で体験できている気がします。串田さんには長年コンビを組んでいらっしゃる齋藤茂男さんという照明家さんがいらっしゃるんですけど、どんなやり取りをしながら照明をつくっているかも間近で見ることができました。作品全体を見つめる立場から照明ができていくのを体験していると、私に何が足りなかったのかも何となくわかってきたんです。串田さんは私に直接おっしゃったりしませんけど、「茶色を俺の横に置いておけ」というのは、そのことを私に理解させるためだったのかと思います。
――伊藤さんは今後どんなことを目指していこうと思っていらっしゃるんですか?
伊藤 照明の経験をもっと積みたいという気持ちがあるので、どなたか照明家の方のもとで勉強させて頂きたいなと思ってます。照明家としてさらにステップアップしたいし、犀の角というクリエイションの場をより良いものにするための技術を身につけたいですね。先ほども言いましたけど、串田さんやせつ子さんの作品に携わらせていただく中で、自分が照明家として自立できないのは現場経験が足りなくて、いい明かりを見ていないからだと感じました。だったら自分が目標とする方のもとで学びたいなと。でもそのあとは基本的には長野県に戻ってきて仕事をしたいと思っています。自分のスキルもそうだし、県内のお芝居のレベルも向上させて、長野県内から面白い作品を生み出していきたい。最初の質問のときに「照明と制作どっちつかず」と答えましたが、今は「どっちも魅力的、どっちも面白い」と思えるようになってきました。
――伊藤さんから見て、『そよ風と魔女たちとマクベスと』はいかがですか?
伊藤 私は私の立場で作品に接していると、作品が立ち上がっていく様子にワクワク、ドキドキが止まりません。これが面白くならないわけはないと、本当に感じています。春からのコロナ禍で皆さんいろんなことを考えたと思うんですけど……あ、すみません、串田さんに呼ばれているので、ここまでですみません。絶対面白い作品になるはずです!